会員寄稿

母校寄付講座で「ふるさとはありがたいもの」とつくづく

𠮷田菊次郎(1967年商学部産業経営学科19組卒業
=株式会社ブールミッシュ取締役会長)
2024年5月23日

 

 筆者の母校明治大学には、「連合駿台会」というOB&OG会があるということをつい先ごろ知った。実はそれまで、そうしたものの存在すら知らなかったのだが、ある時、縁あってその会のお仲間に入れて頂いた。

 いざ入ってみると、これがなかなか面白い。同業にして業界のリーディング・カンパニーたる製菓会社の会長さんや、流通業という同じフィールドのトップの方もおられる。その他、通信社や大会社のトップや重鎮など、実に多士済々である。そこに、明治大学の学長さんや理事長さん、学部長さん等々、上層部の方々も同席されて、皆さん和気あいあいと交流を楽しまれている。

 こんな素晴らしい集まりなら、もっと早くから入っていればよかったと悔やまれることしきりである。

 さて同会より、令和6年3月9日に「寄付講座」と称する特別講座をとのご下命を賜った。だいぶ前に、母校の商学部よりご依頼を受けた特別授業以来久方ぶりだが、どうやら新入会員はおおかたこうした洗礼を受けるらしい。何故「寄付講座」と称するのか分からないが、それはさておき、もちろん即座に諾のお返事をさせていただいた。

 講演や講座の依頼は数多あれど、母校なればなおさらのこと気合が入る。タイトルや内容は自由という。さてどうしたものか。いろいろ考えた末「人はお菓子に夢を見る」としてみた。以前、NHKで同様のタイトルの特番を組んだことを思い出したのだ。ただ、その時の内容についてはとうに失念している。その折のDVDなどを見れば分かろうが、なまじ見るとそれに影響されて話に新鮮味がなくなる。よって借り物はタイトルだけにした。とりあえずこの題名にしておけば、どんな内容でも大概は収まろう。お陰様で受講生は、公表後はほどなくして満席となった由、有難いことである。

 そして当日、おおかたは普通のスーツ姿での登壇となろうが、不肖私め、真っ白なコックコートに背の高いコック帽を被っての登場とした。自分としてはいつも通りのステージ衣装なのだが、受講される方は一様に驚いて下さった。大学の教壇に作業衣で上る方など先ずおられないようだ。冒頭は自己紹介がてらに大学在学中のことなどもお話しさせていただいた。

 大学二年の終わりごろに我が家は倒産の憂き目に合い、勉学もままならない時、折よく? 大学紛争で学園全体が大荒れとなり、表現は悪いがそのどさくさに紛れて、とにかく卒業させて頂けた。その後お家再興、家業再建の任を担って渡仏、帰国後の無一文からの独立開業etc。

 次いで生活におけるお菓子の持つ役割等々で、この辺りはまともな話。そしてその生業を通しての災害支援を含むボランティア活動について。特に3・11といわれる東日本大震災における悲惨な状況などは、実際に災害現場に赴かなければ分らぬことが多い。そんな惨状や突然孤児とされてしまった幼い子どもたちの話になると、つい熱いものがこみ上げ言葉が詰まる。自分で話しながら、自分で感極まってしまうのだから始末に悪い。歳を重ねるほどなぜ涙腺が緩むのか。情けなくなってくるが、これが歳をとるということなのだろう。持ち時間内に何とか収めたが、まとまりのない話にも拘わらず過分の拍手を頂き、またまた感無量に…。

 後で振り返ってみたが、どう見ても掲げたタイトルと話の内容に些かの乖離があったようにも思うが、その点に関しては、皆さま懐深く受け止めて下さったようだ。母校はこんな至らぬ卒業生に対しても、あくまで寛容だ。やっぱりふるさとはありがたいものと、つくづく思った次第。いや、お恥ずかしい。次にチャンスを頂いたら今少しまともな話を、ん? やっぱり無理…かな。

  • <寄付講座において、白衣姿で講義する𠮷田菊次郎氏>